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会計事務所のAI導入の進め方|業務の洗い出しから定着まで7ステップ

業務の洗い出しから定着まで

AI導入の進め方

7ステップ

最初の1業務から始める

試験導入と本番切替を整理
運営元・掲載情報について

本記事は、会計事務所向けのAI導入・開発支援「Zeimee」を提供する株式会社Zeimeeが執筆・運営しています。ステップ4の一部、事例の章、お問い合わせ欄で自社の方針・事例・サービスを紹介しています。特定の他社サービスの比較・評価は行っていません。法令・制度の情報は2026年10月10日時点の一次情報に基づいており、変更される場合があります。

会計事務所でAIの導入を進めようとしても、「何から手を付けるか決まらない」「入れたツールが職員に使われない」という状態で止まることがあります。この記事では、会計事務所のAI導入の進め方を、目的の決定から業務の洗い出し、試験導入、本番切替、定着までの7ステップで解説します。どこから始めるか、誰が何を決めるか、期間の目安、つまずきやすいパターンもあわせて紹介します。

この記事の結論
  • 所長が、目的・判定日・やめる基準を先に決めます。
  • 記帳やチェックなど業務へのAI組み込みは、顧問先×帳票×会計ソフトの単位で洗い出し、1業務×少数の顧問先から試します。生成AIの所内利用は、利用規程を作って別に進めます。
  • AIが作った候補を担当者が確認・承認する工程と、会計ソフトへの反映を分けて設計します。
  • 試験導入では記録を取り、判定日に「続ける・範囲を変える・やめる」を決めます。
  • 導入手段の選び方は内製・外注・パッケージの比較、効果の計算はAI費用対効果の測り方で解説しています。

会計事務所のAI導入の進め方|7ステップの全体像と役割分担

会計事務所のAI導入は、次の7ステップで進めます。期間は、例えば月次記帳の1業務を少数の顧問先で試す場合の一般的な例で、事務所の規模や対象業務によって変わります。

AI導入7ステップの早見表表は左右にスクロールできます。
ステップ決めること主に決める人成果物期間の目安(例えば)
1 目的・判断者・やめる基準改善する業務と工程、判定日、中止の条件所長導入目的シート1〜2週間
2 業務の洗い出し顧問先×帳票×会計ソフト単位の工程と例外DX担当(現場リーダー・職員が記入)業務洗い出し表2週間程度
3 最初の業務の選定試す業務と対象顧問先の範囲所長(DX担当が判定表を準備)判定表、対象顧問先の一覧1週間程度(1〜3で1か月程度)
4 確認・承認と反映の線引き確認・承認・反映の担当、入力してよい情報所長・現場リーダー工程の定義表、所内の利用規程2〜4週間(試験導入の前に終える)
5 試験導入記録する項目と記録の運用DX担当(記録の運用)/所長(判定日に続ける・範囲を変える・やめるを決める)記録シート、判定メモ月次の締め2回分
6 本番切替旧手順の停止日、例外と反映失敗の手順現場リーダー(所長が承認)切替チェックリスト、例外の手順書判定後の次の締めから
7 定着と拡大使われない理由への対処、研修、次の対象DX担当(所長へ報告)定着状況の報告、規程の見直し記録四半期ごとに見直す

日程は、確定申告や決算の時期に試験導入が重ならないように逆算します。この流れは、総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日公表、義務を課さないソフトロー)が重視する、環境・リスク分析、ゴール設定、システムデザイン、運用、評価を繰り返す「アジャイル・ガバナンス」とも対応します。

どこから始めるか|生成AIの所内利用と、業務へのAI組み込みは分けて進める

「AIを何から始めるか」で迷うのは、性質の違う2つの取り組みが混ざっているためです。

AIの取り組みの2つの区分表は左右にスクロールできます。
区分例えば始め方
(a) 生成AIの所内利用資料依頼文や手順書の下書き、調べものの整理入力してよい情報の区分を決めた利用規程を作り、全員で小さく始める(生成AI利用規程の作り方)
(b) 業務へのAI組み込み記帳、仕訳チェック、取込データの作成本記事の7ステップで、1業務×少数の顧問先から進める

並行して進めても構いませんが、記録と判定は分けます。以下のステップは主に(b)を対象にしています。

ツールの比較から始めない理由

同じAIでも、顧問先ごとに帳票の形式、科目の付け方、会計ソフトの取込形式が違えば、AIの後に残る作業は変わります。例えば、明細の読み取りが正確でも、科目ルールに合わせた修正や取込用ファイルの加工が人に残れば、全体の作業時間はあまり減りません。残る作業を見てから手段を選ぶほうが、手戻りを抑えられます。AIを使う業務の候補は税理士・会計事務所のAI活用|12業務の早見表で整理しています。

ステップ1 目的・判断者・やめる基準を決める

最初に決めるのは、ツールではなく「何のために、どの業務で、誰が判断するか」です。ここが曖昧だと、試験導入の結果を見ても続けるかを決められません。

目的は「どの業務の、どの工程か」まで書く

「業務効率化」「DX推進」だけでは、何をもって成功とするかを判断できません。目的は、例えば「通帳明細の入力で手入力の転記を減らし、確認に時間を回す」「自計化顧問先の月次チェックで、仕訳と証憑の照合漏れを減らす」のように、業務と工程まで特定して1〜2文で書きます。

所長・DX担当・現場リーダーの役割を分ける

AI導入の役割分担表は左右にスクロールできます。
役割決めること・担うこと決めないこと
所長(決裁者)予算、対象業務、顧問先への説明、入力してよい情報の範囲、続ける・やめるの判断個々の仕訳や帳票の例外処理
DX担当推進の段取り、洗い出し表と記録シートの管理、所長への報告予算や入力範囲の最終決定
現場リーダー例外の判断基準、職員への手順の周知、確認・承認の運用対象業務を広げるかどうかの決定
職員実データでの試用、修正理由と例外の記録手順やルールの独断での変更

所長が関わらないと止まりやすいのは、入力してよい情報の範囲、予算、顧問先への説明など、現場だけでは決められない判断が出てくるためです。

やめる・範囲を変える基準を先に書く

試験導入の後で基準を決めると、手間をかけた分だけ「もう少し続けよう」となりがちです。例えば「2回目の締めでも修正件数が減らなければ対象の帳票を絞る」「確認・修正の時間が従来の作業時間を上回る状態が続けばやめる」のように、判定日と条件を始める前に書いておきます。確認・修正時間まで含めた計算方法は会計事務所のAI費用対効果の測り方で解説しています。

職員への説明は試験導入の前に行う

「仕事がなくなるのでは」「確認の手間が増えるだけでは」という不安が残ったままだと、記録が集まらず、本番後も使われにくくなります。試験導入の前に、所長から次の4点を説明します。

  • 目的:AIで減らす作業と、空いた時間を回す先(確認や顧問先対応など)
  • 記録してほしいこと:処理時間、修正件数と修正理由、例外
  • 評価への影響:試験導入中の記録や取り組みを評価でどう扱うか
  • 入力してはいけない情報:ステップ4で決める入力区分(決まるまで実データは入れない)

所長自身もツールや生成AIを一度触っておくと、説明に具体性が出て、職員の疑問にも答えやすくなります。出た質問や懸念は記録し、ステップ4の手順やステップ7の対処に反映します。

導入目的シートの記入例

導入目的シートの記入例(一般的な例)表は左右にスクロールできます。
項目記入例(例えば)
目的通帳明細の入力で、手入力の転記を減らし、確認に時間を回す
判断者所長(最終判断)、DX担当(記録と報告)、記帳チームのリーダー(例外の判断)
判定日試験導入を始めてから2回目の月次締めの翌週
中止・範囲変更の条件修正件数が減らない、確認時間が増える、例外の手作業が残る
職員への説明試験導入を始める前の所内ミーティング
入力してよい情報の範囲ステップ4で決める(決まるまで顧問先の実データは使わない)

ステップ2 顧問先×帳票×会計ソフトで業務を洗い出す

同じ「記帳」でも、顧問先ごとに資料の形式、会計ソフト、取込形式が違うため、業務名だけでは残る作業が見えません。「顧問先(群)×帳票×会計ソフト」の単位で、受け取りから保存までの工程を書き出します。

洗い出し表の項目

業務洗い出し表の列と書くこと表は左右にスクロールできます。
列書くこと書く理由
業務名月次記帳、自計化顧問先のチェックなど業務単位で集計する
対象の顧問先(群)個別、または「現金商売の小売・飲食」などのまとまり帳票が似た顧問先をまとめて試す
受け取る資料と形式紙・PDF・Excel・CSV・データ連携読み取りが要るか、加工だけでよいかが変わる
件数と頻度月の件数、毎月・四半期・年1回効果の大きさと例外の出やすさを見る
工程受付→読み取り→入力・転記→確認→取込→保存AIを当てる工程を決める
担当者入力担当、確認者属人化と負荷の偏りを見る
会計ソフトと取込形式ソフト名、取込用CSVの形式、直接入力取込用データの加工が残るかを見る
よくある例外手書き、判断が分かれる取引、資料の不足例外処理の手順を決める材料にする
個人情報・機微情報氏名、マイナンバー、口座情報、給与、相続関係入力してよい範囲を決める(ステップ4)
業務の区分税理士業務(2条1項)か、付随業務(2条2項)か最終判断が人に残る工程を見分ける

「業務の区分」の税理士業務は税務代理・税務書類の作成・税務相談、付随業務は記帳の代行などです。

洗い出し表の記入例

次の3例は、記入のイメージをつかむための一般的な例です。実在の事務所の件数や時間ではありません。

業務洗い出し表の記入例(一般的な例)表は左右にスクロールできます。
項目例1 手書き日計表の取込例2 自計化顧問先の照合例3 相続税の預金取引履歴
対象現金商売の顧問先(小売・飲食など)自計化している顧問先相続税申告の案件
資料と形式手書きの日計表(紙・スキャンしたPDF)顧問先が入力した仕訳と、提出された証憑被相続人の通帳・取引履歴(紙・PDF・CSV)
頻度毎月毎月案件ごと(不定期)
時間がかかる工程読み取り結果の一行ずつの確定と転記、取込用ファイルの加工仕訳と証憑の突き合わせ、差異の確認複数口座の取引を日付順に一覧にする作業
よくある例外判読しにくい文字、書き損じの訂正、独自の項目名証憑の不足、按分や科目の判断が分かれる取引通帳の繰越や合算記帳、摘要の省略
個人情報少ない(取引先名など)取引先名、従業員の立替精算など多い(氏名、口座、家族間の資金移動)
業務の区分付随業務(記帳の代行)付随業務が中心税務書類の作成に使う資料

すでにあるAI利用も棚卸しする

職員が個人の判断で使っている生成AIも対象です。総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン活用の手引き(案)」は、準備事項の1つに、組織内のAI利用状況(目的・用途、部門、使っているAI、使っているデータ)を把握する仕組みを挙げています。所内アンケートなどで集めておきます。

聞き取りでは画面と帳票を見る

聞き取りでは、相談された作業名と実際の業務がずれることがあります。担当者の説明だけで表を埋めず、実際の画面と帳票を見ながら、どこで手が止まり、何と何を見比べているのかを確かめます。作業名と中身がずれていた例は事例の章で紹介します。記帳の工程ごとのAIと人の分担は記帳代行業務のAI活用|工程別分担、自計化顧問先の照合の手順は自計化顧問先の仕訳と証憑をAIで照合するで詳しく解説しています。

AIの前に整えること|資料がデータで届くか

AIで読み取りや照合をするには、資料がデータでそろっている必要があります。紙の資料が多い業務では、スキャンや撮影を誰がいつするか、顧問先からどう回収するか(郵送・メール・クラウドストレージ・会計ソフトのデータ連携など)、どこに保存するかを決めておかないと、AIの手前で作業が止まります。紙の証憑の電子化は、AIの導入後も人の作業として残ることがあります。

ステップ3 最初に取り組む業務を選ぶ|4つの判定基準

洗い出した業務から、最初に試す業務を1つ選びます。判定基準は次の4つで、あわせて資料の形式とデータの機微度も確認します。

最初の業務を選ぶ判定基準表は左右にスクロールできます。
判定基準見ること始めやすい状態
件数・頻度毎月発生するか、件数がまとまっているか毎月一定量があり、効果を比べられる
定型度顧問先ごとの処理ルールを書き出せるか科目や税区分の付け方を文章や表にできる
確認のしやすさ証憑や前月データと突き合わせて正誤を確かめられるか正解の根拠が手元にあり、担当者が短時間で確かめられる
誤ったときの影響申告書や顧問先への提出物に直結するか提出前に別の確認工程があり、誤りに気づける
(あわせて確認)資料の形式紙が多いか、PDF・CSV・データ連携で届くかデータで届く、または電子化の担当が決まっている
(あわせて確認)データの機微度個人情報、マイナンバー、給与、相続関係の情報を含むか機微な情報を含まない、または絞れる

判定表の採点例

○△×で採点した一般的な例です。顧問先の構成や帳票によって評価は変わります。所内文書の下書きなど生成AIの所内利用は、この判定表ではなく利用規程を作って始めます。

判定表の採点例(一般的な例)表は左右にスクロールできます。
業務(例えば)件数・頻度定型度確認のしやすさ誤ったときの影響あわせて確認(資料の形式・機微度)判定
自計化顧問先の仕訳と証憑の照合補助○△○○(指摘候補を人が確かめる)証憑の画像がそろうか/△(取引先名など)先に始めやすい
通帳・カード明細の入力○△(顧問先ごとの科目ルールに左右される)○(明細と突き合わせられる)△CSV・PDFなら○、紙は電子化が要る/△(口座情報)顧問先を絞って試す
年1回の例外処理(決算整理・年末調整の個別判断)××△×(申告・提出物に直結)×(マイナンバー・給与情報を含みやすい)後回しにする

範囲は1業務×少数の顧問先から

全顧問先に一度に広げると、例外が一度に出て原因を切り分けられません。例えば、同じ会計ソフトで同じ形式の通帳明細を受け取っている少数の顧問先から始めます。

導入手段はここでは決めない

市販のパッケージ、所内での自作、外注、エンジニアが現場の業務を確認して仕組みを設計するFDE(Forward Deployed Engineer)型の支援のどれを使うかは、残る作業が見えてから選びます。比較は会計事務所のAI導入は内製・外注・パッケージのどれ?にまとめています。

ステップ4 作成→確認→承認→反映の線を引き、ルールを書面にする

設計が抜けやすいのが、AIの出力を誰がどう確かめ、どこで確定させるかです。工程を「作成」「確認」「承認」「反映」の4段階に分け、誰が・何を見て・何を記録するかを決めます。

作成・確認・承認・反映の定義表は左右にスクロールできます。
段階誰が何を見るか・何をするか何を記録するか
作成AI、または職員読み取り結果、仕訳候補、指摘候補を作る使った資料、作成日時、AIが作ったか人が作ったか
確認担当者証憑・前月データ・顧問先別ルールと照らし、修正・却下する修正内容と修正理由、却下の理由
承認責任者(現場リーダー・税理士)確認済みの内容が事務所の処理方針に合うか承認者、承認日時
反映担当者、または仕組み会計ソフトへの取込が完了したか、件数・金額が合うか反映の成否、失敗時の再実行の記録

ポイントは、承認と会計ソフトへの反映完了を別の状態として扱うことです。承認しても取込が失敗していれば、帳簿は変わっていません。「承認済み」と「反映済み」を分けて記録すると、反映漏れに気づけます。Zeimeeも、承認と反映を別段階として記録する方針をセキュリティ方針で公開しています。

承認が形だけにならないようにする

AIの候補がおおむね正しい状態が続くと、中身を見ずに承認してしまうおそれがあります。AI事業者ガイドラインは、自動化されたシステムを過度に信頼する「自動化バイアス」に注意を促し、対策の例として、AIの判断を承認する前に理由や根拠を人が自分で考えることを挙げています。例えば、次の確認観点を手順書に置きます。

  • 証憑の日付・金額・取引先と一致しているか
  • 顧問先別の科目・税区分のルールに合っているか(ルールの整え方は顧問先別の仕訳ルール台帳の作り方)
  • 前月や前年同月と比べて、不自然な科目や金額がないか
  • 要確認とされた項目の理由を確かめ、修正理由を記録したか

法令・指針で確認すること

確認・承認と入力範囲に関わる主な根拠の要点です。詳しくはリンク先で解説しています。

確認すること・根拠・詳しい記事表は左右にスクロールできます。
確認すること根拠詳しい記事
税務書類に反映される工程は、相当の注意を払って確認してから署名する税理士法33条(署名)、45条2項(相当の注意を怠った場合の懲戒)よくある質問(誤りの責任)
誰が確認・修正・承認したかを記録し、職員の作業を確かめられるようにする税理士法41条の2(使用人等の監督。対象は人でAIではない)、税理士法基本通達41の2-1(ICTを使った監督)生成AI利用規程の作り方
顧問先の情報をAIに入力する範囲を決める税理士法38条・54条(税理士と使用人等の守秘義務。地位を離れた後も続く)税理士の守秘義務と生成AI
個人情報を入力するときは利用目的の範囲内かを確認し、本人の同意なく個人データを入力する場合は、提供事業者が機械学習に利用しないこと等を確認する個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日)AI利用に顧問先の同意は必要?
安全管理措置、従業者と委託先の監督個人情報保護法23条・24条・25条AIツール選定セキュリティチェックシート

AIを使うこと自体が違反になるわけではなく、どの手段で作った書類でも確認する工程が必要と考えられます。個別の判断は専門家や所管官庁に確認してください。なお、改正個人情報保護法(令和8年法律第56号)は2026年7月17日に公布されましたが、2026年10月10日時点では未施行で、本記事は現行法に基づいています。改正の内容は個人情報保護法の令和8年改正と会計事務所のAI利用で解説しています。

書面にするもの

決めた内容は、所内の利用規程とセキュリティの確認項目にします。入力の区分は、例えば「入力してよい」「仮名化すれば入力してよい」「入力しない」に分けて書き、AIサービスの利用規約は契約時点の版を保管しておきます。規程のひな形は税理士事務所の生成AI利用規程の作り方、確認項目は生成AIセキュリティ対策の7項目にまとめています。日本税理士会連合会(日税連)の「税理士事務所等の内部規律及び内部管理体制に関する指針」(2023年3月改訂、本文は会員専用)に沿った規程があれば、その体系にAI利用の項目を加えると運用しやすいと考えられます。

ステップ5 試験導入|対象を絞り、記録を取る

試験導入は、ステップ1の基準で「続ける・範囲を変える・やめる」を判断するための期間です。記録の取り方と判定の計算は会計事務所のAI費用対効果の測り方で詳しく解説します。

始める前に決めておくこと

  • 対象の顧問先(ステップ3で選んだ少数の顧問先)
  • 期間(例えば、月次の締め2回分)
  • 記録する項目:処理時間(確認・修正の時間を含む)、修正件数と修正理由、差し戻し、例外の内容
  • 対象顧問先への説明と顧問契約・サービス規約の条件の確認が済み、ステップ4の入力範囲が決まっているか(整理の仕方はAI利用に顧問先の同意は必要?)
  • 判定日(ステップ1で所長が決めた日)と、判定に出席する人(所長・DX担当・現場リーダー)

実データで試し、職員と一緒に例外を拾う

サンプルデータだけでは、帳票の書き方の揺れや顧問先ごとの例外が出てきません。ステップ4で決めた入力範囲の中で実データを使い、職員と一緒に拾った例外や追加要望を手順や設定に反映しながら、試用と改善を繰り返します。修正理由を「読み取りの誤り」「顧問先ルールの不足」「資料の不足」などに分けて記録すると、直す場所が見えやすくなります。

判定日のチェックリスト

  • 期間中の処理時間を、確認・修正の時間まで含めて記録できているか
  • 修正件数と修正理由が、締めごとに比べられる形で残っているか
  • 例外の一覧と、それぞれの処理方法がまとまっているか
  • 担当した職員から、手順の増減や使いにくさの意見を集めたか
  • ステップ1で決めた中止・範囲変更の条件に当てはまるかを確認したか

ステップ6 本番切替|例外処理と反映失敗の手順を決める

本番切替でつまずきやすいのは、例外が一度に増えることと、会計ソフトへの反映失敗に気づかないことです。切替の前に次の7項目を確認します。

1. 対象顧問先の一覧を確定する

本番の対象にする顧問先と、当面は従来の手順を続ける顧問先を一覧で分けます。

2. 旧手順の停止日と並行運用の期間を決める

並行期間が長すぎると二重作業になるため、旧手順をやめる日を先に決めて周知します。

3. 例外の振り分け先と担当者を決める

AIで処理できない帳票や判断が分かれる取引を、誰に回し、誰が判断するかを決めます。

4. 取込前の検算・確認を手順に入れる

取込用データの件数と合計金額を元の資料と突き合わせてから取り込みます。

5. 反映失敗時の扱いを決める

失敗したものを成功として扱わず、誰が気づき、どう再実行するかを決めます。失敗の一覧を締めごとに確認する担当を置きます。

6. 会計ソフトの認証情報を管理する

ログインIDやパスワードを共有のメモや表計算ファイルに書かず、管理者と保管場所を決めます。

7. 承認と反映の記録を残す

承認の日時・承認者と、反映の成否を別々に記録し、後から確かめられるようにします。

年1回しか起きない例外に備える

決算、年末調整、相続のように年1回や案件ごとにしか起きない例外は、試験導入中には出ず、本番で初めて出ることがあります。出たときの連絡先と判断者を先に決めておきます。

事故が起きたときの報告窓口

AI事業者ガイドライン活用の手引き(案)は、インシデント報告の窓口と対応手順の事前検討を準備事項に挙げ、既存の体制があれば新設は不要としています。情報漏えいの報告ルートがあれば、AIの誤りもそこに加えます。

反映の方式(CSV取込、API連携、MCP接続など)によって、必要な権限や失敗の検知方法も変わります。方式ごとの違いは会計ソフトとAIの連携方法の比較で解説しています。

ステップ7 定着と拡大|使われない理由への対処、DX担当、研修

本番に切り替えても、職員が使わなくなれば元の手順に戻ります。使われない理由を一つずつ取り除き、記録を見ながら対象を広げます。

使われない理由と対処

AIが使われない理由と対処の例表は左右にスクロールできます。
使われない理由起きていること対処の例
手順が増えた従来の作業に、AIへの入力や結果の確認が上乗せされている不要になった旧手順をやめ、並行運用の終了日を決める
結果を信用できない誤りを見つけた経験から、全件を見直している修正理由の記録から誤りの傾向を示し、確認の重点を決める
例外で結局手作業になる例外の振り分け先が決まらず、担当者が抱えている例外の一覧を作り、ルール化できるものは手順や設定に戻す
担当者しか使い方を知らない手順が文書になっておらず、休みや異動で止まる手順書を作り、複数の職員が操作できるようにする
評価に反映されない取り組みが評価や業務量の配分に表れない処理件数や改善提案を評価に含めるかを所長が検討する

全件の見直しから、要確認の項目を重点的に見る体制へ移す方法は記帳代行の品質管理で解説しています。

定着はログイン率ではなく処理件数と修正理由で見る

ログイン回数が多くても、処理が従来どおりなら定着とはいえません。対象業務のうちAIを通して処理した件数と、修正理由の推移で見ます。修正理由が「顧問先ルールの不足」に偏ればルールの整備、「読み取りの誤り」に偏れば資料の受け取り方の見直しが次の手です。

DX担当の置き方

小規模な事務所では兼任も考えられますが、使う時間と所長への報告の頻度・経路は決めておきます。DX担当の仕事は、例えば次のとおりです。

  • 業務洗い出し表と記録シートの管理
  • 締めごとの所長への報告(処理件数、修正理由、例外)
  • 例外一覧の管理と、振り分け先の調整
  • 利用規程の改訂案づくり

IPAと経済産業省の「デジタルスキル標準」ver.2.0(2026年4月公表)も参考になりますが、会計事務所向けではないため、必要な部分だけを使います。

研修は対象業務に結びつける

研修は、AIの一般的な使い方より、対象業務の手順・確認観点・入力区分に結びつけます。人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)は2026年8月3日から、職務に間接的に必要な知識・技能の訓練を対象外とし、生成AIの汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練をその例に挙げています。対象になるかは都道府県労働局に確認してください。

なお、税理士自身の研修受講は、税理士法39条の2では努力義務ですが、税理士会の会則で義務とされている場合があります。例えば関東信越税理士会は、会則で年間36時間の研修義務を定めていると案内しています。職員向けの所内研修とは分けて計画します。

拡大は同じ帳票の別の顧問先から

広げるときは、例えば「同じ帳票の別の顧問先」→「別の業務」の順にすると、例外の出方を予測しやすくなります。顧問先ごとの判断基準や修正内容は、担当者の頭の中に残さず、ツールの設定や処理ルールに戻して共有します。

規程は年1回見直す

AIサービスの規約や業界団体の指針は更新されるため、利用規程は年1回は見直します。日税連のデジタル・システム委員会は2026年9月、会員向けに「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドライン(Ver1.0)」を策定したと案内しています(本文は会員向けのため内容には触れません)。指針の一覧は税理士のAIガイドライン一覧【2026年10月時点】にまとめています。

会計事務所のAI導入が失敗・定着しない7つのパターン

会計事務所のAI導入が失敗する・定着しない原因は、どこかのステップの抜けにさかのぼれる場合があります。一般的なパターンを、防ぐステップと対応させて整理します。

失敗・定着しないパターンと防ぐステップ表は左右にスクロールできます。
パターン起きること防ぐステップ
1 ツールを先に選ぶツールに合う業務を後から探し、残る作業が減らないステップ2・3
2 例外を後回しにする本番に入ってから例外が一度に出て、手作業に戻るステップ6
3 確認・承認を設計しない、承認が形だけになる誤りがそのまま帳簿に入り、誰が確かめたかも分からないステップ4
4 自作ツールが特定の人にしか分からない作った職員の異動や退職で使えなくなるステップ7(手順書と複数人での運用)
5 会計ソフトへの反映失敗に気づかない承認済みなのに帳簿に入っていない取引が残るステップ6
6 効果を測らない続けるかを判断できず、惰性で続くか感覚でやめるステップ5
7 現場任せにする(所長が判断せず、職員にも説明しない)入力範囲や予算が決まらず、職員の不安も残り、試験導入から先へ進まないステップ1

中小企業基盤整備機構の「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(全国の中小企業10,000社を対象としたWebアンケート、2025年11〜12月実施)では、「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」に「あまり当てはまらない」「全く当てはまらない」と答えたのは、この設問に回答した1,635社の計83.3%でした。中小企業全般の数値ですが、他所の事例が手に入りにくくても、ステップ2の洗い出し表で自所に残る作業は確かめられます。

事例|現場で業務の流れを確かめ、開発対象を直した例

Zeimeeが支援した税理士事務所では、当初「現金出納帳のチェック」と捉えていた相談を、エンジニアが現場で処理の流れを一緒に確認したところ、顧問先が入力した仕訳と提出証憑を照合する業務だと分かり、開発対象を実務に合わせて修正しました。経緯は導入事例のページで紹介しています。

業務の流れを確認して仕組みを設計するFDE型の支援を選ぶ場合も、洗い出しと確認・承認の設計は必要です。標準的な帳票のデータ化が目的で、市販のパッケージで足りる場合は、パッケージのほうが合うこともあります。

よくある質問

AI導入は税理士の義務ですか?

義務ではありません。税理士法2条の3は、電磁的方法の積極的な利用などを通じて納税義務者の利便の向上と業務の改善進歩を図るよう「努めるものとする」とした努力義務です(2022年4月1日施行)。2025年9月に全面施行されたAI推進法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)の7条も、活用事業者に効率化・高度化などに努めることや国・地方公共団体の施策への協力を求めるもので、AIの導入そのものを義務付けてはいません。

小規模事務所でもDX担当は必要ですか?

専任でなくても構いませんが、推進役を1人決め、充てる時間と所長への報告・決裁のラインを先に決めます。決めないと記録や判定が後回しになりがちです。担当する仕事の例はステップ7で紹介しています。

最初はChatGPTなどの生成AIから始めてもよいですか?

始められます。ただし、生成AIの所内利用と、記帳など業務へのAI組み込みは分けて考えます。所内利用は、個人情報を含まない所内文書の下書きなどから、入力してよい情報の区分を利用規程で決めてから始めます。業務への組み込みは、本記事の7ステップで1業務×少数の顧問先から進めます。プロンプト例は会計事務所のChatGPT・生成AIの使い方、規程のひな形は生成AI利用規程の作り方を参照してください。

AIを使うことについて、顧問先への説明や同意は必要ですか?

サービスの契約条件、入力する情報、利用目的によって変わるため、一律には答えられません。個人情報保護委員会の注意喚起は、個人情報を含むプロンプトを入力する場合は利用目的の達成に必要な範囲内かを確認すること、本人の同意を得ずに個人データを入力する場合は提供事業者が機械学習に利用しないこと等を確認することを求めています。個別の判断は専門家に確認してください。整理の仕方はAI利用に顧問先の同意は必要?同意書・顧問契約書の見直し方で解説しています。

試験導入の期間と顧問先数の目安はありますか?

決まった目安はありませんが、例えば月次の締め2回分の期間で、帳票の形式が似た少数の顧問先から始める方法があります。1回目は慣れの期間になりやすいため、2回目と比べて判断します。ステップごとの期間の例は7ステップの早見表にまとめています。

AI導入に助成金や補助金は使えますか?

研修費用の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)は、2026年8月3日から汎用的なプロンプト作成の訓練が対象外になりました。ツールの導入には中小企業庁の「デジタル化・AI導入補助金」(旧IT導入補助金)があります。要件は労働局や事務局の最新の案内で確認してください。

AIが作った仕訳の誤りは誰の責任になりますか?

AIを使ったかどうかにかかわらず、事務所が確認・承認して確定させる設計が前提と考えられます。仕訳の作成(会計帳簿の記帳の代行)は税理士法2条2項の付随業務にあたり、その誤りが申告書等の税務書類に反映された場合に、33条の署名や、45条2項の懲戒(相当の注意を怠って真正の事実に反する税務書類の作成などをした場合)が問題になり得ます。顧問先に対する責任は、顧問契約の内容によります。具体的な判断は事案によるため、専門家に確認してください。

公認会計士事務所でも同じ進め方でよいですか?

手順の考え方は同じです。守秘義務の根拠は公認会計士法27条で、正当な理由なく業務上知り得た秘密を漏らしたり盗用したりしてはならず、公認会計士でなくなった後も同様です。入力してよい情報の範囲は、この規定を踏まえて決めます。

まとめ

会計事務所のAI導入は、次の7ステップで進めます。

  1. 目的・判断者・やめる基準を決める(所長が決裁する)
  2. 顧問先×帳票×会計ソフトの単位で業務を洗い出す
  3. 4つの判定基準で、最初の業務を1つ選ぶ
  4. 作成→確認→承認→反映の線を引き、規程にする
  5. 対象を絞って試験導入し、記録を取る
  6. 例外処理と反映失敗の手順を決めて、本番に切り替える
  7. 使われない理由に対処し、記録を見ながら広げる

最初の一歩は、所長が目的と判定日を決め、洗い出し表を1業務分だけ作ってみることです。導入手段の選び方は内製・外注・パッケージの比較、効果の測り方はAI費用対効果の測り方、セキュリティの確認項目は生成AIセキュリティ対策の7項目で解説しています。

参考資料

情報の確認日:2026年10月10日。別日の資料は個別に記載しています。

主な出典

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この記事の編集方針・執筆者

Zeimee編集部は、会計事務所のAI導入・開発を支援する株式会社Zeimeeの編集部です。

本記事は、会計事務所の所長・DX担当がAI導入を進めるときの判断材料として、手順と各段階で決めることを整理したものです。法令はe-Gov法令検索、通達は国税庁、指針やガイドラインは総務省・経済産業省、個人情報保護委員会、厚生労働省、IPA、中小企業庁、中小企業基盤整備機構、日本税理士会連合会・関東信越税理士会の公開資料など、一次情報を中心に確認しました。情報の確認日は2026年10月10日です。

特定のAIツールの実機検証は行っていません。記入例・採点例・期間の例は説明のための一般的な例で、実在の事務所の数値ではありません。日本税理士会連合会の会員向け資料など本文を確認できなかった資料は、公開されている範囲(名称・公表日・目的)だけを記載しています。事例は株式会社Zeimeeが公開している導入事例の範囲で紹介しています。法令の解釈を含む個別の判断は、専門家や所管官庁にご確認ください。

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